準備万端のはずが
本日一件の取引がありました。今回は売却のお手伝いをさせていただいたお客様の、新たな住まいの購入のご支援でした。次に移り住む物件探しの候補をいくつか紹介させていだきました。しかし実際に案内した物件は一つで、その物件に決まりました。そして契約にいたり、すべてが実に穏やかに進みました。取引予定は本日午前11時。
私はいつものように30分前に指定の銀行へ。司法書士の先生もまた、同じく早めの到着。続いて売主側の仲介業者も到着。買主様も到着され、和やかな感じで世間話をしていました。やがて売主さまも到着され、そこから取引は始まりました。
売主から司法書士の先生に書類一式が渡されました。次に司法書士から売主に委任状が渡され、指定された箇所への署名捺印を促されました。ご高齢になられた売主様は老眼鏡をかけ、持参された万年筆でしっかりした力のこもった文字でご自身の名前を書き入れ実印を押されました。物件を売り渡すことに、迷いはないという強い意志を感じさせる気合の入った文字でした。
最後まで冷静な対応
書類を受け取った司法書士、印鑑証明に目を通した瞬間、なにか違和感を覚えたようで、「あれ?」と一言。司法書士は、印鑑証明の印影をもう一度よく見たうえで、さらに印鑑証明書の印影を委任状に重ね合わせ、ペラペラと高速で動かしました。そしてカバンからルーペを持ち出し、売主様に実印の印影と印鑑証明書の印影を確認してもらうように勧めました。すると、「えっ?!これ実印じゃなかったってこと?」
たしかに印鑑の大きさはほとんど同じ、しかも彫ってある象形文字もよく似ています。しかし、いくら似ていると言っても実印ではないことがあきらかとなって、「そこをなんとか」と言われても取引は進みません。
売主担当の営業マンも一瞬青くなりましたが、「ご実印は家にありますよね。今から取りに帰りましょう。私が運転してあげますから」と言って実印を取りに帰られました。そして約1時間後、無事に実印が到着し、「おつかれさまでした。」と言って皆さんの笑顔で取引は完了しました。